秘められた怒り

彼女は今日もまた気付きがあった。世間に対するすさまじい怒りが自分の中にあることに気付いたという。
僕は何年も彼女の激しい怒りを見せつけられてきたので、本人も自覚しているとばかり思っていたが、まったく無自覚だったようだ。
無自覚と言うより、自分でも分からないくらいに隠蔽してきたのだろう。なにしろ、表に出したら事件に発展しかねないほどの怒りである。そこで彼女は自分が悪いと思いこむことで周りを攻撃しないように自分を制御した。
とはいえ、それだけで丸く収まるわけではなかった。激しい怒りを表に出さないためには、それ相応に自分を悪者に仕立て上げなければならない。その作業には、母親の悪態が役に立った。役立たず、足手まとい、頭が悪い、すぐ逃げる、お荷物…こうして彼女が思い描く自己像は、度を超して醜悪な物になっていった。それは罰を与えられて当然だ、と思うようになった。そして、激しい怒りは醜い自分への罰として表現することで整合性が保たれた。
これが彼女の自傷行為の正体である。