友達の猫への餞

奇しくも患者の誕生日の翌日、彼女の幼なじみからメールがあった。家族同然だった猫がその長き命を終えたという。17歳だったらしい。
幼なじみは27歳。猫とは人生の半分以上を共に過ごした間柄だった。彼女の体調が悪いときは、胸の上に上って一緒に寝たという。心の通じ合う、大切な家族だった。
数週間前から胸に水がたまり、高齢なので麻酔もできず、苦しい治療を受けていたという。衰弱しきって声も出なくなってしまったが、今日、仕事から帰ってきた幼なじみを見ると最後の力を振り絞って鳴き、そして息絶えたという。
幼なじみの猫だから、患者にとっても大切な猫だった。最後に会ったのは何年も前だったが、ずっと気にかけていた。なにより、猫は他の誰よりも患者の膝の上を選んだ。家族が不思議がるほどだった。
かつては真剣に自殺を考え、今もまだその癖が抜けきっていない患者であるが、今日のことはその価値観に一石を投じることになった。命の重みを知ること。そのために猫は苦しみの数週間を耐え抜き、今日という日を選んだのだろうか。偶然なのかもしれないが、そんな風に思ってしまう。
僕がその猫に会ったのは一度きりだが、患者と幼なじみに良き日々を与えてくれた猫に感謝したい。