トラウマ下痢

 うちの患者さんが中学生の頃に多大なる悪影響を与えたおばちゃんがいる。悪影響を与えたというより、発狂に追い込んだと言った方が分かりやすい。そのおばちゃんの長所は純粋なところ、短所は空気が読めないところ・・・いちおう長所も書いてみたが虫唾が走る。憎い。まさに迷惑千万、「小さな親切、大きなお世話」を地でいくような人間である。
 聞いた話では、おばちゃん自身も最近は発狂しているらしく、携帯電話の電磁波を異常に恐れていて、電話をかけても出てくれず、話があるときは公衆電話から連絡してくるらしい。なので、こちらからは連絡のしようがないという。関わらざるを得ない人たちにとっては迷惑な話だろう。そうかと思えば、最近は電話に出てくれるようになったらしいのだが、マジックハンドで受話器をつかんでいるので、会話に難儀しているという。迷惑にもほどがある。ていうか何のコントだよ。
 そんな迷惑なおばちゃんに我々が進んで会いたがるわけもなく、もう何年も会っていなかったのだが、今日、うどん屋の入り口でそれっぽい人物を見かけた。他人のそら似かもしれないが、なにしろ顔が似ている上に、挙動がおかしい。手動のドアを自動ドアと勘違いしてじっと待ってみたり、押しボタン式のドアだと思ったらしく取っ手をぱんぱんと叩いているうちに、ようやく注意書きに気がついたらしく、手で横にずらして中に入り、速攻でトイレに向かった。その後、店内で食事をした形跡がないので、トイレだけ利用して出て行ったと思われる。
 この挙動不審者が例のおばちゃんかどうか定かではないし、そんな恐ろしいことは確かめたくもなかったのだが、そのせいでトラウマのスイッチが入ってしまった患者さんは、家に帰り着いて早々、食べて間もないうどんを尻からトイレに流してしまった。よろよろしながら「キャベジンのにおいがするぅ〜」とか「こ、このへん、胃がっ、胃が溶けて流れ落ちる感じっ」とか、ほかにも聞いているこっちの寿命が縮むようなことを言っていた。
 そんなこんなで一時はどうなるかと思ったが、最近は乖離する時間が短く、回復するのが早いため、ずいぶん助かっている。以前なら軽く半日は潰れていたところだ。