公衆浴場

 ふと、何かひらめいたらしい。つぶやくような、しかし冴え渡る声で「銭湯が嫌いな理由が分かった」と言った。
 封印されていた記憶の一つ、養護学校の寮での生活。大人の目を盗んでのけんかやいじめは日常茶飯事で、風呂場でも猿か野犬のような女たちが裸で殴り合いをしており、よくそれに巻き込まれていたという。誰かの下着が見つからないときにも「お前が盗んだんだろ」と言いがかりを付けられたそうだ。
 そういえば、もう何年も前の会話を思い出す。
「(銭湯に行けば)きっと私みたいな人間は殴られるから・・・」
「んなわけないだろ」
 当時はそう答えたが、彼女にしてみれば本気で怖かったのだろう。
 初めて彼女と一緒に温泉に行った時(そのときはid:tomonyaもいた)、彼女は一人でロビーで待っていた。その後も何度となく誘ったが、良い返事をもらえずにいた。それが今では、あまり緊張せずに風呂を楽しむことができるようになったようだ。良い傾向だ。