別れの一首

この年末に、会社に4年ほど在籍した同僚の女性が退職する。
こんなときは寄せ書きされた色紙をプレゼントするのが慣例になっている。そして、誰もが一番手を嫌がるのも慣例。これは日本人の性だろうか。仕方がないので僕が一番手を引き受けた。どうせ誰もが真ん中を嫌がるだろうから、開き直って僕が真ん中を陣取ってやった。

汗だくの爪先凍ゆ元市場 遠き異国の豆を積み上げ

いずれ日本を離れるらしい(短期かもしれないけれど)彼女に捧ぐ日本の思い出。
廃れた市場を改造したボロ社屋は、夏は暑く、冬は寒い。多くの者が毎日のように「暑い暑い」「寒い寒い」と連呼する。彼女が冷え性を訴えていたのを思い出す。輸入した荷物は少しずつ売れてはいるが、なかなか在庫が捌けない。販促活動に力を入れていないのが理由であることは明白で、「こんなことでいいのだろうか」と上層部に対する不信感を募らせる。しかしティータイムのおしゃべりは楽しく弾む。ここは南国の島のようにのんびりとした会社だ。
彼女の行く先はどこだろう。いつか行きたいと言っていた常夏の島だろうか。それとも、豆を生産する豊かな大地だろうか。あるいは、国内に留まるのか。それはまだ聞いていない。しかし、いずれにせよ、この会社のことは一生忘れられないだろう。色紙が荷物の奥底に埋まって二度と日の目を見ることがなくなったとしても、きっと忘れないだろう。