ナイキと娘

数年前、娘さんが発狂していたのを誰も知らなかったころ、近くにいた男性2人がナイキのシューズについて熱く語り合っていたという。
娘さんは、「自分のような面白みのない人間が会話に参加するのは申し訳ない」と思い、最後まで発言を控えていたのだが、どうしても気になることがあった。
「この人たちは苗木(なえぎ)をどうする気だろう?」
たくさんの苗木。
種類も値段もさまざま。
大きさやデザイン、そして機能美をマニアックに語り合う、高尚な趣味の世界。
今は26センチでも、いつか立派な大木になる。
有名なスポーツ選手も持っていて、盗難にあうほどの価値がある。
だが、気になることがあった。「なえぎ」ではなく「ないき」と聞こえるのは気のせいだろうか、はたまた方言か、あるいは新語か。
家に帰って恐る恐る母に聞いてみた。
「ねえ、ナイキって何?」
「知らん」
かくして事実は闇に葬られたのであった。